4.改訂長谷川式簡易知能スケール(HDS-R)
「長谷川式」は本邦の長谷川和夫先生が開発した、3〜5分くらいで行うことができる簡易検査です。満点は30点。
オリジナルはこちら↓
以下は実際の診察での言い回しを取り入れています。場合により検査8と9を逆転して行うことがあります。
1 | 年齢 | 年齢は?(±2才は正解とする) | 0 1 | |
2 | 時の見当識 | 今日は何年何月何日ですか?何曜日ですか? | 年 | 0 1 |
月 | 0 1 | |||
日 | 0 1 | |||
曜日 | 0 1 | |||
3 | 場所の見当識 | ここはどこですか?(自発的に出れば2点、5秒おいて家ですか?病院ですか?施設ですか?のなかから正しい選択をすれば1点) | 0 1 2 | |
4 | 即時記銘力 | これから言う3つの言葉を繰り返して言って下さい。あとで聞くので覚えておいて下さい。 | 桜 | 0 1 |
猫 | 0 1 | |||
電車 | 0 1 | |||
5 | 計算 | 計算です。100から7を引くと? | 0 1 | |
それからまた7を引くと? | 0 1 | |||
6 | 数字の逆唱 | 僕がこれから言う数字を、逆から言って下さい。たとえば1-2-3といったら反対から3-2-1というように答えて下さい | 2-8-6 | 0 1 |
9-2-5-3 | 0 1 | |||
7 | 遅延再生 | さっき覚えてもらった言葉をもう一度言って下さい(自発的に回答があれば1点。無い場合は、「ヒントです。植物と、動物と、乗り物に関係する言葉です」とヒントを与える。ヒントで正解なら1点) | 桜 | 0 1 2 |
猫 | 0 1 2 | |||
電車 | 0 1 2 | |||
8 | 即時記銘力, 物品の記銘 | これから5個の物をお見せします。すぐにしまいますので、なにがあったか覚えて下さい | 0 1 2 3 4 5 | |
9 | 流暢性 | 最後の質問です。知っている野菜の名前をできるだけ沢山言って下さい(詰まり、10秒待っても出ない場合は打ち切る) 0-5個=0点 6個=1点 7個=2点 8個=3点 9個=4点 10個=5点 | 0 1 2 3 4 5 |
同じような検査として「MMSE」がありまして、国際的には(また、研究領域では)MMSEのほうがメジャーであります。しかしながら、私はHDS-R推しです。なぜならば患者さんのプライドを傷つけることなく、限られた診療時間内で素早く行うことができるからです。また、両者を比較するとHDS-Rのほうが認知症のスクリーニングに有用であったというデータがあります*1が、両者の相関は非常に高いので、どちらを使っても同じようなものです。
この検査だけでもある程度の病型診断や状態の把握が可能です。ざっくり言うと、
- 例えば80歳の方に年齢を尋ねて「75歳」と誤答したならば、75歳ごろから軽い物忘れが始まっていた可能性がある
- 認知症の前段階(MCI)だと、「3」で病院名を答えられない事がある(かかり付けの場合は除く)。また、「7」が少し弱い。
- アルツハイマー型だと、「2」と特に「7」が答えられない。初期でも「7」は弱い。
- アルツハイマー型だと、答えられない場合に「気にしてないから」とか取り繕ったり、家族にそれとなく答えを求める(head-turning sign)
- 脳血管型等の皮質下認知症だと、検査に時間がかかり、「5」「6」「9」が弱い
- 両方合併すると、「2」「7」に加え「5」「6」「9」が弱い
- 認知症なしの軽度〜中等度うつ病だと、「5」「6」「9」が弱いが時間をかけると満点近くとれることもある
等々です。
このテストの満点は30点で、20点以下で認知症の人を90%ピックアップできるということになっています。
しかし現実的には、25〜26点を下回ると、認知症あるいは認知症の前段階の可能性が高いです。
アルツハイマー型だと、一年で平均して2.5〜3点ずつ点数が下がります(あくまで平均です。いろいろなケースがあります)。つまり、10年経つと0点です。
1ヶ月おきにやっても仕方がないので、一度診断を付けたのちは、私の場合は概ね4〜12ヵ月おきに行っています。
ご本人が「軽い物忘れ」を気にして受診された場合、24〜26点くらいのケースが多いです。一方、ご家族が「軽い物忘れ」とおっしゃっている場合でも、16点程度まで低下しているケースも珍しくありません。私の経験では、今まで長年一人暮らしをしてきた人にいろいろな問題(買い物ができず食事を規則的にとれない、風呂に入らないなど)が生じ、ヘルパーさんなどのサービスを相当手厚くしないと一人暮らしが難しくなるのが、12点くらいです。一桁になるとサービスを利用しても独居は相当難しいでしょう。
HDS-Rに関してはFASTとあわせて、後の項で更に詳しく説明します。
*1:Kim KW et al. Diagnostic accuracy of MMSE and Rivised HDS-R for AD. Dement Geriatr Cogn Disord. 2005; 19(5-6):324-330.