10.中核症状と周辺症状
定番の表です
中核症状は、認知症におよそ必ず出現する症状です(認知症の定義そのものの症状です)。
中核症状から、判断力の低下や、性格変化が引き起こされ、これまでの生活が成立しにくくなります。中核症状に関しては、アリセプト(ドネペジル)等の薬剤で、症状が緩和しますが、現在のところ完治させる治療はありません。
アルツハイマー型認知症の場合、だいたい決まって数時間前→数分前→昔の事 or 数秒前という順で記憶力が弱くなります。数分前の記銘保持が難しくなるのは、それほど認知症が進行した状況ではなく、むしろ比較的初期の段階です。5分の診察時間の中で、同じ話題を繰り替えすのは、自分が何を話したか(何を話していないのか)を忘れる為です。
したがって、忘れてしまうのは病気の為ですから、「努力しなさい」などの叱責等は無意味であり、まだ初期であり判断力などは保たれていることから、プライドを傷つけます。プライドが傷つくと、不安や怒りといった感情を引き起こします(周辺症状)。
やや高度の認知症になりますと、子供の数や性別も答えられなくなります。文脈や空気を読む能力はかなり最後まで残りますから、診療に同伴した家族のことは何となく家族だという認識が可能なのですが、医師が改めて関係性を問うと、自分の娘を「姉」と答えたりします。こんなことは正常加齢の物忘れでは、決してみられません。
周辺症状は、出るひともいれば、出ない人もいる症状で、本人あるいは介護者を困らせる症状です。環境の調整や増悪因子のコントロールにより、症状が緩和したり、消失させることができます。
例えば、一人暮らしで栄養不十分、睡眠不規則だった人が施設に入って良い介護を受けると消失したりします。また、不適切な薬剤投与や血圧の下げすぎ等が原因になることもあることから、それらの調節や、その他の体の病気の発見・治療によって良くなることもあります。
また、薬物療法で症状が緩和したり、消失することがあります。周辺症状は、怒りっぽさ等の「ハイパー」になるものと、うつ状態になったり等の「ダウナー」になるものの二つにわけられ、それぞれ選択される薬剤等の対応が異なります。
しかし、何をやっても良くならない場合もあることをご理解いただきたいと思います。例えば、部屋の中そこら中で放尿をしてしまうとか、食べ物でないものを食べてしまうとか、徘徊といった行動は、周辺症状とはいっても認知機能低下に由来する症状であり、認知機能症状を元通りにする治療は存在しない以上、良くならないケースも多くあります。お子さんにおむつを吐かせたり、異食をしないように口に入れては危ないものを手の届かないところに置いたり、迷子にならないように目を離さない等と同様の対応が必要になります。
周辺症状も、病気が引き起こす反応ですから、「物を盗られた」等の妄想に対して「自分がしまい忘れたんじゃない?」などと強く説得するのは禁忌です。2〜3歳児が「おもちゃをとられちゃった」と言う場面で「そんなことあり得ない」と繰り返し説得したりはしないと思います。「そうかな〜?気のせいじゃないのかな〜?」といった文言に留めて、一緒に無くなった物を探しましょう。しばらく探して見つからなければ、別のテーマに話題を変えたり、外出したりして、拘っている内容から気を逸らすのがよいとされています。
認知症の妄想は二次妄想ですので、「気持ちとしては理解できるものの、現実とは異なった訂正不能の誤った考え」が定義です。訂正不能なのですから、訂正しようとしても徒労に終わりますし、残念ながら説得内容もすぐに忘れてしまいます。病気を憎むが人は憎まず対応するのが原則です(とはいっても常時介護しているご家族は大変です)。
なお認知症の初期で出現する、不安を背景とした周辺症状は、認知症の進行と共に自然と消失する事も多いです。