8.更にFAST詳しく
以下に引用した表は、FAST Stageが高い(進行した)状態の変遷がについてより詳しく説明してあります。想定される期間や、「最後は寝たきりになる」ような事が書いてありますが、病状の進行は人によって差があります。また発症年齢によっては、末期のStageに至る前に、病気あるいは寿命により亡くなるケースも多いです。*1 *2
1 | 正常 | 50年 | 主観的および客観的機能低下は認められない | 5-10年前と比較して、職業上あるいは社会生活上、主観的および客観的にも機能低下はない | |
2 | 年齢相応 | 15年 | 主観的な機能低下はあるが、客観的な機能低下は認められない | 名前や物の場所を忘れたり、約束を思い出せないことがある | |
〃 | 主観的な機能低下は、親しい友人や同僚にも通常は気がつかれない | ||||
〃 | 職業上あるいは社会生活上の複雑な機能は障害されない | ||||
3 | 境界状態 | 7年 | 職業上あるいは社会生活上の複雑な任務に支障をきたしうる、十分大きな客観的機能低下を認める | 生涯で初めて重要な約束を忘れてしまう | |
〃 | (MCI) | 初めての場所への旅行のような複雑な作業を行う場合には機能低下が明らかになるが、買い物や家計の管理、あるいは行き慣れた場所への旅行など日常行っている作業をするうえでは支障はない | |||
〃 | 要求を求められるような職業的あるいは社会的環境から退いてしまうこともあるが、退いた後の障害は明らかではないかもしれない | ||||
4 | 軽度のAD | 2年 | 日常生活上の複雑な任務に支障をきたす | 客を適切に招待できず、半分の人をパーティの翌日に招待してしまう | |
〃 | 買い物で必要なものを必要な量だけ買うことができない | ||||
〃 | 誰かが管理しないと、勘定の計算を正しく行うことができず、重大な間違いを起こすことがある | ||||
〃 | 自分で衣服を選んで着たり、入浴したり、行き慣れた場所へ行ったりすることはできるため、介護なしで社会生活ができるが、単身で生活し、自分で家賃を支払っている場合、家賃の額を尋ねられると、低く答えてしまう | ||||
5 | 中等度のアルツハイマー型認知症 | 18ヵ月 | 適切な衣服を選ぶというような日常生活上の基本的な任務が行えない | 日常生活を自立して行えず、介護が必要となる | |
〃 | 介護者が家計や買い物の手助けをする必要があるし、季節と場所に合った衣服を選んであげる必要がある | ||||
〃 | いったん適切な衣服を選んでもらえれば、自分で適切に着ることができる | ||||
〃 | 定期的な入浴を忘れることもあり、入浴に説得が必要なことがあるが、自分で適切に入浴でき、湯の調節もできる | ||||
〃 | 自動車の運転が困難となり、不適切にスピードを上げ下げしたり、信号を無視したりする | ||||
〃 | 運転中、人生で初めて他の自動車に衝突してしまう患者もいる | ||||
〃 | 叫び声を上げたり、過活動性や睡眠障害のような感情障害により、しばしば危機的状況となり、医師の介入が必要になる | ||||
6a | やや高度のアルツハイマー型認知症 | 5ヵ月 | 不適切な着衣 | 寝巻の上に普段着を重ねて着てしまう | |
〃 | 靴ひもが結べなかったり、靴を履くときに左右を間違えてしまう | ||||
6b | やや高度のアルツハイマー型認知症 | 5ヵ月 | 入浴を一人で行えない | 湯の調節や浴槽への出入りができにくくなり、体も適切に洗えなくなる | |
〃 | 入浴後、体を完全に乾かすことができなくなる | ||||
〃 | このような入浴の障害に先行して、風呂への恐怖や抵抗がみられることがある | ||||
6c | やや高度のアルツハイマー型認知症 | 5ヵ月 | 用便を一人で行えない | 用便後、水を流すのを忘れたり、きちんと拭くのを忘れる | |
〃 | 用便後、下着やズボンを戻すのが困難となる | ||||
6d | やや高度のアルツハイマー型認知症 | 4ヵ月 | 尿失禁 | この段階の特徴は時に6cの段階で起こるが、6cより2〜数ヶ月後のことが多い | |
〃 | この時期の尿失禁は尿路感染症や泌尿生殖器系の障害なく起こるものであり、適切な用便を行う際の認知機能低下に起因する | ||||
6e | やや高度のアルツハイマー型認知症 | 10ヵ月 | 便失禁 | 便失禁は6cや6dの段階でみられることもあるが、この時期に認められることがより多い | |
〃 | 便失禁は尿失禁と同様に、用便に対する認知機能低下により起こる | ||||
〃 | 焦燥や明らかな精神病様症状のためにしばしば危機的状況を生じ、医療施設を受診することになる | ||||
〃 | 暴力的行為や失禁のために、家族は施設に入所させることを考えるようになる | ||||
〃 | 多くの患者が幻覚妄想状態になることがある | ||||
7a | 高度のアルツハイマー型認知症 | 12ヵ月 | 語彙が最大6語となる | ADの進行と共に、語彙の減少と会話能力の低下は進む | |
〃 | Stage4と5の段階で、無口になったり、会話が少なくなったりすることはしばしば認められ、Stage6では完全な文章を話す能力が次第に低下する | ||||
〃 | 失禁がみられるようになると、会話は単語あるいは短いフレーズに限られ、語彙は2,3語になってしまう | ||||
7b | 高度のアルツハイマー型認知症 | 18ヵ月 | 理解できる語彙がただ一つの単語となる | AD患者が最後に使用する単語は様々であり、患者により「はい」であったり、「いいえ」であったりする | |
〃 | すべての応答が「はい」であったり「はい」という言葉が肯定と否定の両方の意思を示すために使われることもある | ||||
〃 | 病期が進行するにつれて、最後の1単語も使用しなくなるが、何ヶ月後に突如その最後の1単語をはっきりしゃべることもある | ||||
〃 | 最後の1単語も使用しなくなると、ぶつぶつ意味不明のことを言ったり、大声を出すだけになる | ||||
7c | 高度のアルツハイマー型認知症 | 12ヵ月 | 歩行能力の喪失 | ADでは比較的早期から歩行障害が出現することがあるが、それは認知能力の障害によるもので、例えば歩行の速さが早すぎたり遅すぎたりすることはまれではない | |
〃 | Stage6では、歩行がゆっくりになったり、小刻み歩行をとったりし、階段の昇降に介助を要するようになる | ||||
〃 | Stage7の歩行障害は認知能力の障害ではなく、恐らく大脳皮質運動野の破壊に起因する | ||||
〃 | このStageの歩行障害の出現時期は多少様々である | ||||
〃 | 単純にゆっくりとした小刻みな歩行が進行する場合や、歩行時に前方、後方あるいは側方に体が傾くこともある | ||||
〃 | 体をくねらせて歩行することもある | ||||
7d | 高度のアルツハイマー型認知症 | 12ヵ月 | 座位保持能力の喪失 | 歩行能力を喪失しても、介助なしで椅子に座っていることはできる | |
〃 | 歩行能力の喪失1年後、介助なしでは椅子に座って居ることもできなくなる | ||||
〃 | この時期ではまだ笑ったり、噛んだり、ブツブツうなったり、握ることはできる | ||||
7e | 高度のアルツハイマー型認知症 | 18ヵ月 | 笑う能力の喪失 | この時期ではまだ眼球を動かすことができ、刺激に反応して眼球をゆっくり動かすことは可能であるが、見慣れた人や物を認識するとはできない | |
〃 | 把握反射、嚥下機能が保たれており、多くの場合、噛むこともできる | ||||
〃 | 刺激に反応して大声をあげる | ||||
7f | 高度のアルツハイマー型認知症 | - | 首がすわらなくなる | 主に食べ物を認識することができないため、経管栄養が必要となる | |
〃 | 音をたてることはできるが、発声は外的刺激により起こり難い |
次に、FASTと他の評価スケールとの関係を示します。
繰り返しになりますが、人によってこの通りにならない場合もあります。
*3 *4