7.『認知症疾患進展の法則性とヒトのnatural history』
『スフィンクスの謎「朝には四つ足、昼には二本足、夜には三つ足で歩くものはなにか」への答えは”ヒト”であるが、現代では”晩にはまた四つ足”を追加すべきではないだろうか。』
臨床をやっていて、漠然と考えていたことそのものスバリを、宇高不可思先生が老年精神医学会誌の巻頭言に寄稿して下さいました。すばらしい内容ですので、ご興味のある方は、ぜひ原文に当たっていただければと思います(老年精神医学雑誌2013年24巻3号224-226)。
ということで、この項はまるっきり引用に頼りたいと思います。
- 長生きすればみな認知症になる
- 日頃接する患者さんたちの姿は、自分たちの将来の姿である
- アルツハイマー病の進行は、個体発生におけるdevelopmental milestoneとほぼ逆の順に機能が失われる
- 病理学的にも、遺伝的に定められた髄鞘形成の順序とほぼ逆に病変が進行する。
- 脳波の基本周波数の変化・PETによる脳局所グルコース代謝の変化も発達を逆行する
- 脳血管性認知症の場合であっても、系統発生的に新しい部分から障害される
- 認知症疾患、とくにアルツハイマー病の場合は進化の過程の逆行という原則があてはまる*1
- 安直なアナロジーは慎むべきだが、BPSDに類似の症状は幼児の発達の過程でしばしば観察される*2
- 図は、ヒトの一生の姿勢と起立・歩行の遷延に関する模式図である。一度は発達した抗重力機構が加齢で弱体化し、歩幅や腕の振りの少ない高齢者歩行(↑)になるが、脳の病気でこの機構が破綻すると点線以下の病的な歩行・姿勢(*)を示し、最終的には重力に負けて胎児の姿勢と同じ、”大脳屈曲性対麻痺”にまで至る事を示す。責任病変は(略)前脳の広範な病変であり、全介助・失禁の寝たきり状態に戻るのは、起立、排尿、精神活動の中枢のいずれもが主として前脳に存在するからである。